7機の試験を支えたエンジニア
人工衛星開発の最終工程は、完成した衛星をロケットの打ち上げ施設のある射場に運び、打ち上げ業者に引き渡す射場作業、いわゆる「Launch Campaign (ローンチキャンペーン)」です。開発メンバーが射場に赴いて作業します。
アクセルスペースが開発する次世代地球観測衛星「GRUS-3(グルーススリー)」の射場作業は、打ち上げ場所である米国カリフォルニア州のヴァンデンバーグ宇宙軍基地で2026年6月に実施されました。
【前編】は射場作業を紹介しました。【後編】はその作業を支えたエンジニアに焦点を当てます。
次世代地球観測衛星GRUS-3射場作業|現地レポート【前編】
丸一日の試験を2時間に削減
今回の射場作業のチャレンジは、7機の衛星に対する作業を限られた日程の中で、並行して進めることでした。7機の作業を短期間で完了できた鍵の一つが、メンバーが開発したテスト自動化ツール「OTT(On-Board Computer Testing Tool)」です。このツールは、衛星のメインコンピューターにつながる機器の試験を自動化しています。GRUS-3の開発工程から導入され、開発スピードの向上に大きく貢献してきました。
最大の特徴は、ソフトウェアエンジニアでなくても簡単に操作できることです。これまではソフトウェアエンジニアが複数のツールを使い、手作業で試験を実行していましたが、このツールは画面上のボタンをクリックするだけで試験の開始から終了までを自動的に実行します。異常がある場合は、自動生成されるレポートを見ればどの工程で問題が発生したかをすぐに確認できます。
開発したのは、射場作業に参加したソフトウェアエンジニアのマオさんです。
「最も難しかったのは、何を試験するかを見極め、試験の合格基準を明確にすることでした」。1年半前に入社以来、マオさんは衛星の機器やシステム、試験内容を理解するために、担当エンジニアに何度も質問を重ねながら自動化ツールの開発を進めてきました。
射場作業で、その成果は大いに発揮されました。姿勢制御機器の健全性試験は、従来、手作業により1機あたり丸1日かかっていたところ、ツール導入により2時間に短縮されました。作業効率だけでなく、テストの正確性や一貫性の向上にもつながりました。
マオさんは「今後は、自動化する試験の範囲をさらに広げてツールを成長させ、正しく速く効率的に衛星開発ができるように貢献していきたい」と抱負を語りました。
衛星運用の知見で最終試験を支える
シニアフェローであるソフトウェアエンジニアの國母さんは、技術アドバイザーとして今回の射場作業に参加しました。地上で操作する衛星の自動運用システムの開発や、衛星のメインコンピューターのソフトウェア開発を率いた経験を持ち、現在は試験チームのリーダーも務めています。
「衛星の運用にかかわる地上側、衛星側のソフトウェア開発を手掛けてきたので、ソフトウェアがどう動くか、どう動かなければいけないかを理解しています。射場作業では、衛星運用にとって核になる機能を重点的に試験することを重視しました」
宇宙空間で動くコンピューターには、地上のものと異なる制約があります。例えば、衛星のコンピューターは限られた電力で動く必要があり、フリーズしても地上のように人間がリセットボタンを押すことができません。このような軌道上特有の制約を踏まえながら、衛星システムの堅牢さを効果的に評価する試験内容を構築してきました。
國母さんはこの1年、GRUS-3の試験と並行して、軌道上の性能検証機「GRUS-3α(グルーススリーアルファ)」の運用にも携わり、開発チームと協力してソフトウェアの改良を何十回も重ねてきました。これらの改良はGRUS-3のソフトウェアにも反映され、GRUS-3の衛星システムの信頼性向上につながっています。
GRUS-3の打ち上げを前に、「緊張していません。これまでの開発の過程でメンバー全員が積み上げてきたものに自信があります」と静かに語りました。