GRUS-3 開発者インタビュー vol.4
次世代地球観測衛星GRUS-3(グルーススリー)は光学センサーを搭載し、地球上のあらゆる地点を高頻度かつ広範囲に観測するというミッションを持った7機の小型人工衛星です。2026年7月7日午後4時12分(日本時間)に打ち上げられ、無事に軌道投入されました。
GRUS-3の地球観測ミッションを支える中核技術の一つに、姿勢制御という技術があります。これは、衛星に搭載された望遠鏡が撮影したい地点に向くように衛星の向きを変えたり、撮影した画像の地球上での位置を正確に把握したりするための技術です。
GRUS-3の姿勢制御に関わる開発をリードしてきたのはJAXA出身のベテランエンジニア、岩田さんです。人工衛星の姿勢制御を専門にしてきた岩田さんに、技術や自身の経験について聞きました。
岩田 隆敬 (いわた たかのり)
株式会社アクセルスペース
姿勢軌道制御系ユニット長 兼 エンジニアリングマネジメント室長
JAXA歴約30年のベテランエンジニア
― 岩田さんの宇宙との関わりを教えてください。
1969年にアポロ11号が月面着陸した時、私は小学1年生でした。科学技術の進歩が社会を変えていく時代の雰囲気を感じながら育ち、自然と宇宙開発に興味を持つようになりました。東大・同大学院、米スタンフォード大大学院で航空宇宙工学を学んだ後、宇宙開発事業団(現・宇宙航空研究開発機構、JAXA)に入社しました。
大学生のころから誘導制御、特に人工衛星の姿勢・軌道制御を専門にしています。制御とは、システムの挙動に応じて働きかけ、システムを望ましい状態に導く技術で、私にとってエンジニアリングの視野を広げてくれた分野でした。
JAXAで最初に配属された陸域観測技術衛星(ALOS)「だいち」プロジェクトでも、衛星の姿勢と位置を高精度に決定し、制御する技術の開発や運用を担当しました。その後、誘導・制御グループ長、チーフエンジニア室長、システム技術ユニット長、チーフエンジニアなどに就き、JAXAに約30年勤めました。
― アクセルスペースに入社した理由は。
私が開発に携わった「だいち」は、開始から打ち上げまで約10年のプロジェクトでした。このような大型衛星に比べ、アクセルスペースが創業当初から注力している小型衛星は、開発期間やコストを抑えられることが強みです。小型衛星は、民間による宇宙開発の可能性を大きく広げました。
一方で、小型衛星を短期間・低コストで確実に開発するプロセスの確立や、さらなる技術向上には、業界として課題があります。また、小型衛星による地球観測画像データ提供を事業とするアクセルスペースは、衛星の姿勢と位置の決定と制御の精度を高め続ける必要があります。これらの課題にチャレンジすると同時に、私がエンジニアとして培ってきた知見を次の世代に引き継ぎたいと考え、入社しました。
地球観測を支える姿勢制御
― 姿勢制御の役割について教えてください。
GRUS-3のような地球観測衛星の姿勢決定と制御には、主に2つの役割があります。1つは、撮影したい地点に光学センサーの望遠鏡を正確に向けること、もう1つは、撮影した画像が地球上のどの位置に対応するのかを正確に特定することです。
1つ目について、衛星は通常、望遠鏡やアンテナが地球の中心を向くように制御しています。望遠鏡やアンテナは衛星に固定されているため、目的の方向に向けるには衛星自体の姿勢を変えます。撮影時は望遠鏡が指定した地点を向くように、撮影した画像データを地上に送信する時はアンテナが地上局を向くように制御します。このような通常時の姿勢を三軸姿勢といいます。
2つ目の、撮影地点の特定は、衛星の軌道上での姿勢と位置を正確に把握することによって可能になります。この正確さは、提供する地球観測データの品質に直結します。
GRUS-3は高度585kmから地上分解能(地上の物体を判別する能力)2.2mの画像、つまり1画素2.2m四方の画像を撮影します。正確に撮影するためには、衛星の姿勢と位置を高精度に推定し、安定した姿勢に制御する必要があります。
なお、万が一衛星にトラブルが発生した場合は、衛星の電力を確保することを優先し、太陽光パネルに十分な光が当たり、望遠鏡が太陽を直接見ないような安全姿勢を維持します。この姿勢は打ち上げロケットから分離した直後にも利用します。
― 姿勢制御の仕組みを教えてください。
まず、スタートラッカーとジャイロという2つのセンサーを使って衛星の姿勢を把握します。
スタートラッカーは、センサーが観測した星の位置と、内部に登録された「スターカタログ」と呼ばれる星の位置データを照らし合わせることで、衛星の宇宙空間での方向を知る装置です。ジャイロは衛星が回転する速さ(角速度)を測定します。2つの情報を組み合わせ、衛星の現在の向きを高精度に推定します。
推定した「現在の向き」と「向けたい方向」との差を計算し、衛星を回転させる力を発生させるリアクションホイールなどのアクチュエーター(姿勢駆動装置)に指令を出し、姿勢を調整します。この仕組みは自動で行われるようになっています。
軌道上に7機を等間隔に配置
― 2026年7月にGRUS-3が打ち上げられました。
打ち上げ後、7機の衛星の健全性を確認し、各衛星の安全姿勢を確立しました。さらに各衛星の機器の状態を確認した上で、三軸姿勢を確立しました。今後は、商用運用に向けた正確な姿勢決定と制御を実現するため、衛星内のさまざまなデータを取得し、姿勢制御の装置やソフトウェアを調整していきます。
さらに今後、軌道制御を実施します。GRUS-3の7機は同じロケットから打ち上げられ、7機が順番に軌道投入されました。軌道投入直後は、同じ軌道上の近い位置にまとまった状態で地球を周回しています。
GRUS-3は、同一地点を1日1回観測できる体制を築くため、7機を軌道上に等間隔に配置する計画です。私たちは、軌道計画チームが作成した計画に基づき、各衛星が目的の位置へ配置されるよう、推進装置(スラスター)を噴射して位置を調整する予定です。
T型エンジニアを育て、宇宙技術を次世代へ
― 今後への期待は。
宇宙開発は世界的に見ても、政府から民間へと移行してきています。衛星通信の民営化が進んできたように、地球観測事業もますます民営化が進み、その用途も広がっていくでしょう。GRUS-3の打ち上げによって、アクセルスペースが世界で戦える企業になっていくことを期待し、私もそれに貢献したいと思います。
私は学生時代から、1つの技術を深く理解すると同時に広い知識を持つ「T字型のエンジニア」を目指してきました。アクセルスペースには優秀なエンジニアが多くいます。これからも後輩エンジニアたちと切磋琢磨しながらともに育ち、宇宙技術を発展させ、社会をより良いものに変えていきたいと思います。Change the World――それが私のテーマです。
関連情報はこちら:
次世代地球観測衛星「GRUS-3」7機の打ち上げおよび電波受信成功
次世代地球観測衛星「GRUS-3」クリティカル運用を正常に完了