アクセルスペースは、地球観測データ提供事業「AxelGlobe(アクセルグローブ)」を展開し、小型の地球観測衛星「GRUS-1(グルースワン)」5機を運用しています。2026年には次世代機の「GRUS-3(グルーススリー)」7機を打ち上げて地球観測体制を強化し、幅広い産業のニーズや用途に対応していく予定です。
衛星による地球観測データは地上の課題解決にどのように役立っているか、顧客企業様へのインタビューから紐解きます。
今回は、衛星データを用いた地表観測サービスを提供する山口県宇部市のベンチャー企業、株式会社New Space Intelligence(NSI)様です。プロジェクトマネジメント部門海外プロジェクト担当マネージャーの齊藤岳様にお話を伺いました。
衛星データ解析の山口大学発ベンチャー
【会社概要】
社名:株式会社New Space Intelligence
本社所在地:山口県宇部市
代表取締役:長井 裕美子
設立:2021年11月2日
HP:https://www.newspaceint.com/ja
- NSI様の事業について教えてください。
山口大学とタイのアジア工科大学院の研究室メンバーによって、2021年に設立されたベンチャー企業です。日本やアジアの災害対策に役立てる衛星データ解析の研究が原点になっています。衛星データを使ってあらゆる産業をアップデートし、衛星データをより身近にすることで、社会課題解決につなげたいと考えています。
NSIの事業の基盤は、「衛星データパイプライン®」という独自のプラットフォームです。オープンデータのほか、民間企業や政府機関、大学が運用する衛星のデータと連携し、光学やSAR、ハイパースペクトルなどの衛星データを組み合わせながらお客様が解決したい社会課題に応じた活用が可能です。このパイプラインは、衛星データの選択から統合、解析、提供までのプロセスを自動化し、地表の状況を効率的に把握できる仕組みになっています。
アクセルスペースとは2023年1月、衛星データの利活用に関するMOUを締結しました。
衛星データにより業務を省力化
─ 衛星データにはどのようなニーズがありますか。
人手がかかっている業務を、衛星データで効率化・省力化したいというニーズが多くあります。
例えば山間部にある変電所やダムなどのインフラ監視です。平時には異常がないかどうか、災害や大雨の後には、送電線への倒木やダムへの流木の堆積、土砂崩れの有無などを確認したいという要望があります。また、カーボンクレジットの分野では、森林の健全性を衛星データから評価し、二酸化炭素をどれだけ吸収できるかを見極めたいというニーズも増えています。
こうした二ーズに対して、衛星データは広い範囲を高い頻度で観測できる点が強みであり、同じ場所を継続的に観測して時系列で変化を追うこともできます。加えて、アクセルスペースが提供する光学衛星画像は、見たまま直感的に理解しやすく、お客様自身で扱いやすい点が大きなメリットになっています。
─ 人から衛星データへの置き換えは進んでいますか。
現時点では完全な置き換えにはなっていません。人手をかける現地確認の前の判断材料として、つまりスクリーニングのために使われているケースが多いです。
「宇宙からの監視カメラ」をコンセプトにNSIが提供するモニタリングサービスは、見たい場所をあらかじめ登録しておくことで、定期的に画像データを自動取得します。変化や異常を検知した場合に担当者に通知するため、現地パトロールの回数削減や優先順位付け、さらに変化の早期発見につながっています。
雲が多い海域の島をGRUSでタスキング撮影
─ GRUSの衛星データを活用したプロジェクトを教えてください。
NSIは、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が実施する2023年度の「SBIR(Small/Startup Business Innovation Research)推進プログラム」に採択され、インドネシアの無人島を対象としたスマートモニタリングの開発に取り組みました。
インドネシアは、東西約5100kmに1万7000以上の島々が広がる島嶼(しょ)国です。無許可の土地開発や砂の採掘によって漁場の環境変化や島の消失につながる可能性がありますが、こうした開発が規制に違反していないかを確認するために、政府職員が全ての島に上陸して調査するのは現実的ではありません。
そこでNSIは、GRUSなどの衛星データを活用し、広域に点在する無人島や離島のモニタリングを実施しました。
─ GRUSの衛星データを使ったことでメリットはありましたか。
インドネシアの海域は雲が多いため、オープンソースの衛星データでは監視に必要な範囲を観測できず、データ収集に苦労していました。
アクセルスペースのGRUS-1は、特定エリアを指定して撮影する「タスキング撮影」という手法で海域を撮影海域を撮影することが可能でした。担当者に柔軟かつ迅速に対応していただいたおかげでデータを取得でき、本当にありがたかったです。
以下は2024年3月17日、GRUS-1Aの撮影画像です。画像中央にある島の中部と南部の土地で土地開発が進んでいることが分かります。衛星データの判別精度の向上のため現地確認に訪れたところ、実際にこの島ではリゾートホテルが建設されていました。
【アクセルスペース担当者より】
・撮影依頼のあった地域は、雲がかかっている割合が恒常的に高いため、こまめに天気予報を確認しながらGRUS-1による撮影計画を立てました。
・GRUS-1は1回の撮影で複数の島をカバーする広域撮影が可能ですが、雲の影響により、全島を一度に撮影することは困難でした。そのため、島ごとに撮影できるよう計画し、雲の量を見極めながら複数回にわたって撮影しました。
・GRUS-1の姿勢制御技術を生かし、自社運用の衛星ならではの柔軟性を改めて示すことができました。
─ 国内での利用はありますか。
GRUS-1は日本国内のアーカイブが豊富で、NSI本社のある山口県宇部市を含め、都心部だけでなく地方都市のデータが網羅されています。NSIの顧客は現在、国内が中心なので、国内地域のモニタリングを希望するお客様への提案にはとても有利です。
今後もNSIとアクセルスペースの協業を加速させていきたいと考えています。
衛星データをさらに使いやすく
─ NSI様が今後目指す方向を教えてください。
衛星データをより使いやすくするために現在進めているのは、ユーザーがデータを入手してすぐに解析できる状態に加工されたアナリシスレディデータ(Analysis Ready Data:ARD)の開発です。
併せて、異なる衛星プロバイダーのデータを統合する仕組みも開発中です。同じ対象を観測しても衛星ごと結果に差が出ることがあり、それらを補正・統合することで、一貫性のあるデータとして扱えるようになります。
宇宙に関心を持ってくれる企業は増えています。しかし「宇宙で何をやるか?」というところで立ち止まってしまう例は少なくありません。こうした方にも利用を広げていくには、使いやすい衛星データを提供し続ける必要があります。
─ アクセルスペースの今後に期待することはありますか。
アクセルスペースが2026年に打ち上げるGRUS-3の衛星データの品質と安定性に期待しています。GRUS-3の高精度なデータを基準(リファレンス)とすることができれば、他の衛星データを補正・統合し、利用できる衛星データを増やすことができます。さらに、国内外の豊富なアーカイブと高頻度な観測によって提案の幅が広がり、より多くの二ーズに対応できるようになることを希望します。
光学衛星コンステレーションを運用するアクセルスペースには、GRUS-3を含めてこれからも地球観測体制を強化していただきたいと思っています。