 
          アクセルスペースは、小型衛星コンステレーションから得られた地球観測データ活用による新興国との協業の推進を中長期的な事業戦略として位置づけています。2025年10月29日、アフリカの2つの政府系機関とそれぞれ、衛星データを利用して現地の社会課題を解決することを目指した覚書(MOU)を締結しました。アクセルスペースがアフリカを含む新興国とともに実現したい未来について、代表取締役の中村友哉が語りました。
 
              ー なぜ新興国に取り組むのですか。
きっかけは、AxelGlobe事業の構想を発表した2015年ごろにさかのぼります。地球観測データの新規活用先を模索していた時、宇宙分野での海外協力を検討する日本政府のタスクフォースに参加する機会がありました。東南アジアや南米、中東などを訪問し、多くの関係者が日本の宇宙技術に興味を持ち、タスクフォースとして一部の国で衛星データ利用を推進する概念実証(PoC)を行いました。
しかし、宇宙利用は期待したほど現地に根付かず、日本との協業の発展につながらなかったように感じています。日本の政府開発援助(ODA)は従来、ハードウェア輸出やインフラ建設が中心だったため、衛星データ利用を支援する知見があまり蓄積しておらず、現地で継続して使うところまで持っていくことに難しさがありました。また、新興国への援助は政府予算に依存しており、PoC後のフォローが不足していたことに加え、相手側も自国の状況に即した宇宙利用に熱意や具体策を持っていなかったことが原因の一つと考えます。
新興国の人々の暮らしを豊かにするために、サステナブルな国の成長につなげるために、日本の高い技術力や宇宙利用のノウハウが生かせないのはもったいない。その課題に向き合うキーワードは「Beyond Aid(援助を超える)」です。援助する側、援助される側という一方的な関係でなく、ともに新しい価値を生み出すWin-Winな関係づくりが大切であり、私たちはこれに真剣に取り組もうとしています。
ー 具体的に何をしますか。
新興国の中で、いま注力するエリアの一つはアフリカ諸国です。宇宙分野ですでに実績があるブラジルやインド、東南アジアでのシェア拡大とは別に、これから宇宙産業が盛んになっていくアフリカで、現地の事業パートナーとともに地球観測データ利用の仕組みを一から整えていくところから始めていきます。
単にハードウェアやデータを提供するのではありません。現地の人々が真に求めているものに対し、ソリューション(解決策)を一緒に開発します。宇宙を利用したことのない人に「宇宙を利用して解決したいことはありますか?」と聞いても、出てくるアイデアは限定的でしょう。まずは実際に現地に行き、さまざまなものを見たり聞いたりし、その上で適切なパートナーと信頼関係を築き、現地の事情をより深く理解する必要があります。
これまでのアフリカの人々との対話で、農業や鉱山のモニタリング、違法漁業の監視など、一次産業の効率化に地球観測データを利用したいという希望をよく聞きました。広大な国土を管理し、政策立案に活用したいというニーズもあります。しかし、まずは先入観を捨て、地球観測データ利用というアプローチによって解決すべき社会課題をきちんと見極めたいと思います。
 
               
          ー 事業戦略における位置づけは。
新興国に宇宙産業を根付かせることは、中長期的に利益を生み出すための投資になると考えています。
国が発展するに伴い、宇宙は必ず利用されるようになります。急速に経済発展を遂げる新興国は、最新技術を活用し、日本やほかの先進国が長い年月をかけて歩んできた道のりをショートカットして成長しています。例えば、固定電話を飛び越えて携帯電話が普及したように。これから新興国では、衛星データ利用が前提になり、それで足りない部分を地上インフラが補完するという「宇宙利用前提社会」が生まれていくのです。
宇宙に本気で挑む国々とともに私たちは、現地に地球観測データ利用の新たな市場を創り、成果を出していきたいと考えています。いくつかの国にデータ利用が定着し、ロールモデルとなって周辺国に横展開され市場が広がることで、当社の地球観測データの利用も広がっていくと確信しています。
ー 最後に、この取り組みに対する思いを。
アメリカを筆頭とした先進国の宇宙予算は今後も拡大すると予想されます。宇宙関連サービスを展開する企業も急速に増えており、価格競争も起こりつつあります。私たちの創業以来のビジョンである「Space within Your Reach~宇宙を普通の場所に~」を達成するには、すでにある市場だけではなく、まだ市場のないエリアにも宇宙利用を広げていく必要があります。新興国との協業の推進は、中長期的に宇宙からの恩恵を受ける人たちを増やすことにつながります。
地球観測データが誰かの暮らしを豊かにしたり、社会を少しでも良くしたり。私たちの目の前にいる人たちが宇宙から直接の利益を得られるような未来を追求していきます。