
2023年はアクセルスペース創業15周年となる節目の年です。そこで、未来に向けアクセルスペースをリードするメンバーを紹介する連載をスタートしました。(他のメンバーインタビュー記事はこちら)
第2回はAxelLiner事業本部長の安岡篤史です。長らく製造畑を歩み、アクセルスペースへの参画を機に宇宙業界に飛び込んだ安岡から見たAxelLiner事業について聞きました。

プロフィール
安岡 篤史/AxelLiner事業本部長
芝浦工業大学工学部電気工学科を卒業後、1993年にオムロン株式会社入社。商品技術部門、設計部門、マーケティング部門に従事し、2005年にオプテックス株式会社、2015年に日本アスコ株式会社(米国エマソン100%子会社)を経て、2022年9月よりアクセルスペースに参画。2022年12月よりエンジニアリング本部長に就任。現在、株式会社アクセルスペース 取締役 AxelLiner事業本部長。
■アクセルスペースの魅力
業界未経験でも革新的だと分かるチャレンジングな事業に共感

昨年アクセルスペースに参画するまで宇宙業界に携わったことはありませんでした。もともと扱っていたのはセンサーやスイッチのような、どんな製品にも必ず1つや2つは入っているような工業製品です。なかには人工衛星やロケットなど宇宙関連の製品に使用されるパーツなどもありましたが、主要顧客は宇宙業界ではありませんでした。
私はこれまで、自分が必要とされる組織で任される仕事に対してワクワクできるかどうかを大事にしてキャリアを選択してきました。業界を問わず自分の経験を活かしてチャレンジできる仕事を探していた際に、偶然アクセルスペースを紹介されました。
今後任せたい業務としてAxelLiner事業の説明を聞いた時の興奮は今でも覚えています。衛星製造は長らく1機ずつフルカスタムのオーダーメイドで開発・製造されてきましたが、この方法では近年急増している小型衛星のニーズに迅速に対応することができません。アクセルスペースはGRUSの量産経験をふまえて、量産体制の確立を目指すということでした。業界でもまだ量産化に挑む企業は少ないという点にも面白みを感じ、参画を決めました。
私自身は小型衛星の量産化というのは衛星製造に限ったことではなく、日本の製造業のあり方を変えていくかもしれないミッションだと捉えています。今もワクワクしながらビジョン実現に向けて事業開発に取り組んでいます。
■アクセルスペースでのミッション
衛星プロジェクトの革新と衛星をより使いやすくする次世代技術の開発
AxelLiner事業では衛星プロジェクトのあり方を根本から変えていきます。
ポイントは3つあり、1つ目が前述した製造手法の革新による量産化です。プロジェクトにかかるコストを大幅に削減し、納期も劇的に短くなります。

2つ目はUX(顧客体験)の革新です。従来の衛星プロジェクトでは上の図の左側に示されるように工程ごとに異なる組織との調整や手続きが必要で、交渉のためには専門知識も求められました。煩雑な手続きは参入障壁となっていましたが、「AxelLiner Terminal」を利用することで顧客は開発から運用に至るまでの全工程を1箇所で完結できます。
衛星の製造はもちろん、自動運用システムの提供、衛星の輸出入や許認可の取得、打ち上げロケットや保険の手配までワンストップで提供するサービスは世界を見渡してもほとんど見つかりません。このような網羅的なサービスが可能なのは15年間で積み重ねてきた経験とノウハウがあるからです。日本国内でもワンストップサービスを構築できるのは、おそらくアクセルスペースだけでしょう。

そして、3つ目の革新が共同創業者でCo-CTOの永島もお話ししているサステナビリティへの取り組みで、業界を牽引していきたいと考えています。
さらに、AxelLiner事業では従来弊社が製造していた観測衛星に加え、通信衛星や実証衛星にも対応していきます。2023年春には、光通信等の衛星コンステレーション基盤技術の開発・実証を行うNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)のプロジェクトへの参画も決まりました。現在は同プロジェクトに取り組むコンソーシアムでワンチームとなって、システム設計に向けた議論を進めています。
■今のチャレンジ
未経験だからこそできることもある。最強のチームで目指す「Space within Your Reach」
AxelLiner事業では、複数の衛星プロジェクトが同時進行で動いていますが、そのうちの1つ、実証衛星初号機「Pyxis」は軌道上実証(2024年初頭打ち上げ予定)に向けて、製造・開発も佳境に入ってきています。しかし、「Pyxis」のチームには私と同じく業界未経験のメンバーも多く、失敗や手戻りもあって道のりは決して平坦なものではありません。それでも皆で協力しながら完成に向けて歩みを進めています。
アクセルスペースでは3つの行動指針、Axelspace Wayを掲げています。なかでも大切だと考えるのは仲間と切磋琢磨して共に成長を目指していこうというメッセージが込められている「Lead each other」です。会社という組織には大勢の人がいてそれぞれ仕事をしていますが、1+1=2では意味がないと思っています。1+1が3やそれ以上になっていくためにはお互いがお互いを引っ張っていくことが大切です。

日々忙しく働いていると、指針やビジョンなどを忘れがちです。前例がなく難しい課題も多いプロジェクトに携わっていると、目の前の課題以外のことに目を向ける余裕はないかもしれません。しかし、そうした時こそ会社が目指す方向性を再確認し、取り組んでいる仕事の壮大さに改めて気付けば、再び前進する力も増すのではないでしょうか。
■思い描く未来・Vision
家電製品をつくるように衛星をつくれたら。汎用化による普及の先にあるもの

今取り組んでいる衛星製造の標準化を進めて量産が可能になると、小型衛星の価格は今よりも下がるはずです。それでもなお、一般に浸透するには衛星は高価で、利用者が国や大企業に限られるという現状は変わらないでしょう。ですが、もし価格が今の半額、あるいは4分の1にまで下げられたらどうでしょうか。そこまで下がれば爆発的に広がっていくのではないかと思います。そうして世の中に衛星が行き渡れば、今では想像もできないようなアプリケーションが出てくるかもしれません。
アクセルスペースのビジョン「Space within Your Reach〜宇宙を普通の場所に〜」を技術面に置き換えるなら、開発・製造においても部品の選定などの際に宇宙向けだから特別という扱いにしないということだと思います。
弊社には創業メンバーが民生部品でも宇宙環境に耐えられるのかを自分たちで評価・検証してきた歴史があります。宇宙向けだから特別、宇宙で使うものだから仕方がない、ではなく、一般的な技術製品と同等の方法で製造できる可能性がないかーーそういった検討や試行を積み重ねていけば、家電製品を製造する傍らで人工衛星を製造するような時代がくるかもしれませんね。AxelLiner事業はまだ始まったばかりですが、”Liner(定期便)”のようにニーズにあわせてどんどん打ち上げ、みなさんに宇宙を活用していただけるよう、視野を高く持ち、社会に役立つ次世代技術の開発に邁進していきます。